復興から福香へ
東日本大震災から2021年で、10年が経ちます。
この10年間、福島はずっと「復興」し続けてきました。
私は、福島が歩むべき次のステージとして、「福香」を掲げています。
「香」という漢字には、姿や色、声、味などがよい様という意味があります。
福島の今の姿、復興の歩みから生まれた新たな景色の色、福島に住む人々の活気あふれる声、福島の農林水産業や飲食業が織り成す美味しい味覚・・・
その人々の手から生み出されるかぐわしい福島の香りは、福島の地でしかつくれない。
香りというものは不思議なもので、人と人とのすき間をなくし、どこまでもどこまでも広がっていきます。
香りはだれにも縛られない。自由に、しなやかに、人々の心に染み渡っていく。
そんなふうに、福島のすばらしさを、福島だけでなく、日本各地へ、世界へ、拡げ伝えていくことが次の10年には、求められているのではないでしょうか?
残念ながら、各地を周り、私が福島出身だと伝えれば、
「I know tragedy.(悲劇だったね)」といわれます。いつまでも、こうして福島のことを覚えていてくださることは、とてもありがたい。
でも、そこで終わってはだめなんです。
福島は、あの時から止まっているわけではない。
あの時から、進みつづけている。
その力強い歩みを、魅せていかなければならない。将棋の駒のように、時に、後ろで力を蓄えながら、時に、前へ前へ、どこまでも突き進む。そんな香車ように気高く、未来を切り拓いていく福島で在りたい。
駆け上がる10年から、突き進む10年をつくり、成熟した福島を築き上げていきます。
共に、福島の未来をつくっていきましょう。
具体的な5つの方針
1. 大きな一手から小さなたくさんの挑戦づくりへ 〜共生の経済〜
東日本大震災から10年、復興は未だ道半ばです。
この10年で30兆円規模あった復興予算は今後5年で1.5兆円にまで減額されています。そのため、急に予算がつかなくなり事業の継続が難しくなるケースも多くあります。 私の周りでも、震災後に想いを持って立ち上がった企業が、支援が途切れた途端に、経営が傾いたとということもありました。地域の疲弊は近年に急速に増し、限りある財源だからこそ、将来に向けてより有効に活用しなくてはなりません。
そこで、様々な企業や団体の持続可能な経営体制を築くためにも、一人ひとりの想いや経営意識を補助金等の支援と合わせて育む仕組みが必要であると考えています。私は、地元商店街の店主と協力し、共に事業を企画することで、地元の歴史・自然の大切さを体感しながら、活気づく住民・お店の様子を見てきました。
地域同士、住民同士が互いを尊重し、私達の暮らしと自然環境の共生を目指すことで、将来にわたる豊かな地域経済を目指します。私は、地域内の経済循環を生み出し、活性化させることで、住民・地域・自然環境の持続可能な基盤を築きます。
2. 対処から予防へ 〜生きがい創出から、健康の伴走〜
人生100年と言われる昨今、健康づくりは欠かせない要素です。東日本大震災以降、福島県はメタボリック症候群の割合の増加が目立ち、該当する県民の割合が18.1%(2018年)と過去最悪の状態となっています。
心身共の健康を保つためには、単に身体的なことだけではなく、自分を知り、地域を知り、世界を知り、自分の生きがいを見つけ行動する心理的な側面も必要です。
私は、地域のコミュニティ施設の経営を通して、住民一人ひとりが主役となる空間づくりを徹底して行ってきました。自ら好きなタイミング・分野・立場で、主体的に動くことで福祉が向上し、地域の魅力を次々と発見できるようになります。地域で暮らす人々の心身の健康が増進による、地域の活力の向上を目指します。私は多世代に渡って憩いとなり、遊び、学びの場となる地域を築き、住民の健康増進を図ります。
3. 誰かに与えられるから自らつくるへ 〜居場所と役割・出番の共創〜
日本の子ども(17歳以下)の7人に1人が貧困状態と言われています。また、一人ひとりの個性にあった教育・社会体制が整っていないために、一人で悩む子どもが増えています。ユニセフの調査でもCOVID19のパンデミックにより子どもの精神的幸福度の低下が著しいという指摘もあります。
私は福島市子どもの食堂NETにてSDGs宣言の作成を手伝った際、老若男女、個性分け隔てなく、すべての人に出番と役割があり、地域一人ひとりのちょっとしたお裾分けの心が、大きな力を発揮することを感じました。しかし、こうした居場所づくりは継続性が難しく、社会的に認知されるまでにいたるのも大変です。常に安心して居られる場所こそが、一人ひとりを救う力を持っています。私は、コミュニティ施設とNPOが連携して居場所づくりを行うことで、学校や婦人会、その他、地区組織の方との連携がとりやすくなり、住民が安心して集えるようになった例を学びました。
既存の公共施設の活用や企業との連携を強化し、子どもを軸とした地域づくりを展開し、世代間交流や地域のつながりの深化を図ります。
4. 学校教育から学公教育へ 〜学び合える教育づくり〜
OECDは、Education 2030において、これから求められる学びとして、エージェンシー(自ら考え、主体的に行動して、責任をもって社会変革を実現していく姿勢・意欲)を提唱しました。
すべての学ぶ人は、地域の宝です。人々の好奇心を刺激し、主体性を育むために、子どもから大人まで学校という垣根を超えてつながることで、地域全体で学びを育む教育を実現します。
私は、コミュニティ施設の事業経営の中で、小中高大の全ての教育機関と連携し合い、学校教育で担いきれない郷土学や地元学、キャリア教育などの支援を行う他、普段の学びを披露する場を学ぶ本人たち自ら企画・運営する環境を築きながら、一緒につくってきました。地域のつながりから、地域にいる素敵な人々と出逢うことで、自分自身のロールモデルや目標を探すこともできます。失敗を許容する環境を整えることで、おもいっきりがむしゃらに前にすすむことができます。私は、すべての学ぶ人々が自ら主体的に自由に学び合うことができる環境をつくりあげます。
5. 孤立から命を守るチームへ 〜暮らしを守る住民のための災害対策〜
自然災害や感染症、日本は数多くの災害に見舞われています。特に、2019年の台風19号の被害の爪痕は未だ大きく残っています。
私が実際に現場対応に当たった際、想定外あるいは想定していなかったための対応の遅れや組織の縦割りによる対策の違いが現場の混乱を招いていました。
災害時に住民の暮らしを守るためには、行政と各地区のコミュニティ、そして一人ひとりの行動が重要となってきます。災害の激甚化ともいわれるほど災害の被害が年々増しているからこそ、想定外が起きても対応する準備を常日頃から整えることが求められます。つまり、地域のつながりが強いほど、災害時に命を守る力となるのです。
私は、どのような事態が起きようとも、冷静に対処し、人命、健康、経済を守る力強い国づくりを実現するため、ハード面の整備と一人ひとりの実践を重視します。
さいごに
これまで福島は幾多の困難と向き合い、復興の道を歩んできました。これまでの経緯を受け継ぎ、足りてないところを補い、そして、後世にツケを残さないために、責任をもって最後まで復興をやり抜く。その先に、福島が日本へ世界へ広がりつながり合う「福香」への道が拓けると信じています。その理想の社会の実現のために、これからも実践してまいります。