早朝、「4月6日新型コロナウイルス感染症の拡大防止を受け、安倍首相は緊急事態宣言に踏み切る意向を固めました。」とニュースを聞きました。
ところで、緊急事態宣言とは何でしょうか。
考えてみたいと思います。
アメリカやタイでは、国家非常事態宣言という言葉でした。
「緊急」と「非常」
これは、単に旧法上か現行法上の呼び方の違いです。
日本は、1954年の警察法改正によって「非常事態宣言」から「緊急事態宣言」へと改称しています。
日本では、緊急事態宣言と呼ぶことが望ましいということですね。
緊急事態宣言って何?
緊急事態宣言とは、特別措置法を根拠としています。
3月13日に改正されてニュースになったものですね。
この特別措置法の対象は、武力攻撃、内乱、暴動、テロ、大規模な災害、疫病など様々ありますが、今回は「新型インフルエンザ等対策特別措法」の取り扱いが問題となります。
この法律は、2009年に世界的に流行した豚由来の新型インフルエンザの際に、行事の自粛や休校の判断などが自治体で分かれ、責任の所在もはっきりしなかった反省から2012年に法律を成立しました。
この時、私は高校生で、楽しみにしていたシンガポールへの修学旅行が直前で中止となったので、よく覚えています。
日本の緊急事態宣言には、「災害対策基本法」に基づく災害緊急事態の布告と、「警察法」に基づく緊急事態の布告、そして、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく新型インフルエンザ等緊急事態宣言があり、いずれも内閣総理大臣が発します。
あれ?
北海道の鈴木知事が緊急事態宣言を出したような、、、と思う方もいらっしゃいますよね。
これらは特別法を根拠とするものではなく、法的拘束力の無い要請や注意喚起に過ぎません。2010年に宮崎県の東国原知事も宣言を出したことがあります。
しかし、アメリカでは州知事・首長に災害にともなう地域内非常事態を宣言する職権がありますので、こういうところでも違いが見受けられます。
さて、緊急事態宣言は要件を確認した上で、首相が必要と判断した場合、区域・期間を示して宣言します。たとえば、「東京(区域)」に「〇日間(期間)」というようにです。
“緊急事態要件”とは、「国民の生命や健康に著しく重大な被害を与えるおそれ」「全国的かつ急速なまん延により国民生活や経済に甚大な影響を及ぼすおそれ」です。
だいぶ感覚的な文言ですが、仕方ないかもしれません。緊急事態ですので。
この時、警察・自衛隊など公務員の動員をしたり、私たち国民の自由が一部制限されることもあります。しかし、この制限の仕方は、各国の法律に応じて大きく異なります。
つまり、今アメリカではこうなっているから日本も!というわけではなく、日本は日本の法律に基づいて、判断していくことが求められます。
緊急事態宣言で出番が増える都道府県知事と、気になる具体的な措置6つ
緊急事態宣言が発令されると、都道府県知事の役割が増えます。
これは、地域の実情に応じて規制する範囲を考えるからですが、知事の判断によって大きく差が出てきてしまうことも可能性としてありえます。
具体的に可能となる措置は、以下の通りです。
(1)「住民に外出自粛要請」
(2)「休校などの要請・指示」
(3)「大規模施設の使用制限の要請・指示、イベントの開催制限や中止の要請・指示」
(4)「臨時の医療施設設置で土地や家屋を使用、医薬品などの売り渡しの要請・収用」
(5)「マスクなど必要な物資の売り渡しの要請」
(6)「公共交通機関の総合調整」
(1)「住民に外出自粛要請」
基本的には、今、自治体が出している「自粛要請」と変わりません。(特措法45条)
しかし、宣言が出された後は法的根拠が加わりますので、重大性・深刻性がメッセージとして伝わると思います。海外との違い、欧米では罰則規制をつけており、そのことで強制力が生まれますが、日本では罰則規制設けていませんので、強制力は伴いません。
(2)「休校などの要請・指示」
こちらも強制力はありませんが法的根拠ができたということになります。(特措法45条2項)
これにより、多くの自治体と私立学校が従うことになると思われます。
(3)「大規模施設の使用制限の要請・指示、イベントの開催制限や中止の要請・指示」
こちらも指示に強制力はありません。(特措法の45条2項)
しかし、自治体が“対象となる施設などをホームページなどで公表する”ため、従う施設や企業、団体が多いと考えられます。
また、この時、同時に補償の考えが重要になりますが、法律の条文には「補償する」とは記載されていません。つまり、これは政治判断です。対象・範囲・補償金額・受付方法など慎重に議論が必要であると思います。
(4)「臨時の医療施設設置で土地や家屋を使用、医薬品などの売り渡しの要請・収用」
こちらは罰則規定があります。(特措法49条)
土地や家屋の使用を拒否した場合は『30万円以下の罰金』、売り渡しの拒否の場合は『6か月以下の懲役または30万円以下の罰金』です。罰則が伴うということは前科がつくことになりますので、強制力が高くなります。
さらに、緊急の場合は、運送事業者などに対し、医薬品や医療機器を配送するよう要請、指示を行うこともできます。こちらについては、従わなくても罰則はありません。
(5)「マスクなど必要な物資の売り渡しの要請」
マスクなど必要な物資については、売り渡しの要請ができ、また応じないときには、知事が強制的に収用できるようになります。(特措法55条)
すでに政府は、3月10日に、国民生活安定緊急措置法に基づき、マスクを買い上げ、北海道や医療機関など必要な施設に配っています。
(6)「公共交通機関の総合調整」
公共交通機関への規制は書かれていません。
しかし、総理大臣や都道府県知事は、「指定公共機関」と総合調整を行うことができます。(特措法20条、24条)これは規制というよりも、むしろ最低限ここは稼働させてほしいというお願いになります。
また、疫病における交通の制限又は遮断を定めた感染症法33条では、72時間以内で局所的な閉鎖や、そこに向かう交通手段の遮断を行うことができますが、この目的は消毒であり、人の動きを制限するものではありません。
感染症法34条では、これらの措置は必要最小限度で行うこととするとありますので、海外で行われている「都市封鎖」など地域全体を封鎖するロックダウンについて、日本で法的根拠に基づいて行うことは非常に難しいかと思います。
緊急事態宣言で問われる日本の危機管理体制
SNSやメディアの情報を見ると、「なぜ日本は緊急事態宣言を早く出さないのか」という疑問を多く聞きます。しかし、緊急事態宣言は自由の制限と表裏一体ですので、慎重に行わなくてはならないことも事実です。
私は、国民と政府の間に、緊急事態という認識の差があると感じます。
そもそも緊急事態の考えは、「リスク管理」と「危機管理」の二つがあります。
リスク管理とは、これから発生するかもしれないリスクを洗い出し、整理して回避を試みること。
危機管理とは、実際に危機が発生したときに、その影響を最小限にとどめ、正常状態への回復を試みることです。
国民の感情としては、「リスク管理」の中で緊急事態宣言を捉え、政府では「危機管理」の中で緊急事態宣言を捉えていると感じます。
だからこそ、政府は会見の際に、「まだその段階ではない。持ちこたえている」という言葉を多用してきました。
しかし、疫病は予防策がとれるものです。つまり、事前に強いメッセージを出すことができます。国民の大多数が「そりゃ緊急事態でしょ」と思っている段階で出しても意味がありません。
予防措置が可能な疫病などは、リスク管理の緊急事態宣言が重要になります。少しでも危機になるリスクがあると判断される場合に出す緊急事態です。具体的に言えば、“緊急事態要件”を緩和し、例えば「疫病などの急速なまん延により、国民の生命や健康に重大な被害を与える可能性がある」とすることです。
それは、最悪のケースを想定(Assumption)し、各フェーズの最善の行動を整理させることを指示し(Better)、各自治体、国民にも共有した上で、冷静に行動することを求めることです(Calm)。私は、これを「緊急事態のABC」と呼んでいます。(参考:リスクマネジメントのABC)
今回、自治体では各部署で指示が統一されず、国民を混乱させてしまったことも、こうした想定が取れていなかったからではないでしょうか。
この意味においては、今後、特別措置法において、戦時に行われる緊急事態宣言と分けて発令できるように十分に吟味していくことが求められます。
想定されうる一定のフェーズを国が例を挙げたことに基づき、この場合における措置を各自治体で考え、各部署を一つにまとめ、関係機関、企業などへ通知し、地域一帯で解決にあたる。
オーバーシュート、ロックダウン、突如として出てきた新しい言葉を使うこともやめましょう。大事なのは、国民が混乱しないようにすることです。
そして、これは同時に、国民の理解力も必要です。
起きたからどうするではなく、「起きる前にどうする」という動きであるため、危機にならなかった場合、政府に対してオオカミ少年的扱いをし、メディアやSNSで攻撃してしまう可能性もあるからです。
しかし、それは違います。
それが危機管理なのです。
この機会に、危機管理に強い日本、自治体をみんなで考えたいです。
そして、一人ひとりの力で、この困難に打ち勝ちましょう!!!
(2020年4月6日)
コメント