働き方改革で日本は変わる

レポート

1、働き方改革と私

 

2013年。

大学時代、一本の動画に心を奪われた。

「財政を全く使わずに、少子化、うつ病、介護問題を解決できる方法。

それが、働き方改革だ。」

 

TedxTokyoのプレゼンターである株式会社ワーク・ライフバランス社代表取締役小室淑恵氏が語りかける内容に、私は耳を澄ませた。

 

課題山積の日本において、財政を使わずにこれらの課題を解決しうる方法が本当に存在するのか。そんなことが本当に可能なのか。

 

10分ほどのプレゼンテーションが終わり、私の価値観はガラッと変わった。

 

これだ!

 

働き方改革を本気で進めることができれば、日本は変わる。

気づけば私は、当社へのインターンシップを希望する書類を出していた。そして、7か月に及ぶ、大学とインターンシップの両輪生活がスタートするのである。

 

 

2、働き方改革の誤解と本質

 

2013年というと、働き方改革がようやくテレビなどで取り上げられるようになり始めた頃である。世間からのイメージは、「会社内で働き方改革というと、早く帰りたい、さぼりたいと思われてしまう」と、決して良くなかった。

コンサルティングとしても、各会社の人事部を通して行うことが多かった。しかし、社内では、一つの明確な方針があった。

 

働き方改革は、人事戦略ではない。経営戦略だ。

 

人の労務を管理する人事部だけではなく、会社の利益を追求し経営を安定化させる経営者層が、いかに本気で取り組むかが重要であるということだ。

 

(図1)労働時間の国際比較 「我が国の労働時間と長時間労働の動向について」

https://www5.cao.go.jp/keizai3/monthly_topics/2018/0913/topics_056.pdf

(図2)就業者 1 人当たり労働生産性の国際比較 「労働生産性の国際比較 2019」

https://www.jpc-net.jp/research/list/pdf/comparison_2019.pdf

(図3)就業者1人当たり労働生産性 上位10か国の変遷 「労働生産性の国際比較 2019」

https://www.jpc-net.jp/research/list/pdf/comparison_2019.pdf

 

世界と比較すると、日本は主要先進国の中で、50時間以上の残業を最もしている国であるが、就業者一人当たりが生み出す生産価値は最下位。世界と闘う日本の企業にとって、この結果は反省しなくてはならない。

日本の高度経済成長は、人並外れた労働力で推し進められてきた。その間、世界に誇る技術を確立し、1990年代には就業者一人当たりの生産価値も14位まで上昇した。しかし、その後、世界がそれに追いついてくると、日本は再び下位に戻ってしまう。つまり、世界では技術革新を追うだけではなく、どれだけ世の中に新たな価値を生み出せるかを軸に経営を推し進めており、日本はその点で後れをとっている。今、日本の働き方を変えなければ、取り返しのつかない世界との差が生まれてしまう。

 

だからこそ、働き方改革は、経営戦略なのである。

 

私は、コンサルティングを行った各会社の現場を体感して確信をした。

残業時間が減ったとしても、売上が上がる企業がたくさん存在したのだ。それだけではない。各会社の社員の交流の輪が広がり、笑顔が増えていく。社員一人ひとりが、自分の役割に集中し、厳しい際はヘルプを出し、お互いに助け合う。利益を上げることにつながるのではなく、日本の伝統精神の和を体現した空間を作り上げるのが、働き方改革なのだ。

 

 

3、日本の働き方改革と違和感

2017年、日本政府と経済界が、働き方改革のキャンペーンとして提唱したプレミアムフライデー。当時、私は金融機関に務めていたが、職場内では「働き方改革=早帰り」という風潮になり、「早帰りできる部署とできない部署もある。こんな政策に意味はない」と先輩方が話していたのを覚えている。上司からも早帰りを求められるだけで、業務量は変わらないため、一人でどれだけ工夫をしても、明日の自分へ仕事を託すほかなかった。結果、実際にプレミアムフライデーを体感したのは、初めて実施された月の1回だけであった。世の中でも、「働き方改革なんて」というように、その効果を疑問視する声が多くなった。

 

また、2019年、労働基準法が改正され、残業時間への規制が厳しくなった一方で、高度プロフェッショナル制度が導入された。これは、高度な専門知識を有し一定水準以上の年収を得る労働者について、労働基準法に定める労働時間規制の対象から除外する仕組みである。

この議論も全て残業時間にばかり囚われている。

 

私は、悔しかった。単に早帰りだけが先走り、国民もその本質を体感していない。これは働き方改革ではない。

 

 

4、海外の働き方改革の事例

 

海外には、より徹底して働き方を追求している国もある。

例えば、フィンランドでは、今日の終業と明日の始業の間に11時間の仕事のない時間(インターバル)を設ける、週に1度は35時間の休憩をとるなど、法律で強制的に休む時間をつくり、労働者が過労に陥らないよう配慮されている。また、業種によって時間は異なるが、コーヒー休憩をとることも法律で定められている。

しかし、ここで見落としてはいけないのが、コミュニケーションを図るための工夫としてコーヒー休憩が取り組まれていたり、会社ではフリーアドレスを導入し、自分の席を自由に決めることができるなど、労働環境を工夫し続けている。また、仕事とリンクする休み方をしている人も多く、大学がそれを支えている。結果、フィンランドではスタートアップが盛んとなり、ヨーロッパのシリコンバレーとまで言われるようになった。

当然だが、フィンランドは、早く帰ることを目的にこれらの制度を整えてきたわけではない。

やはり、日本の働き方改革は本質を見失いつつあるように見えてしまう。本当の意味での働き方改革を浸透させていくことが求められる。

 

 

5、求められる対策のポイント

 

働き方改革は、単に就業時間を減らすことが目的ではない。一人当たりの生産価値を高めることを最大限要求するものである。

そこで求められるポイントを4つに整理する。

ⅰ)就業時間に高い集中力を維持するために、労働環境を工夫し続けること

フリーアドレス制を導入できるように、デスクを固定化しない。また、1日一度使える「集中ルーム」や「集中タイム」を設けて、その時間帯は緊急事態以外、電話なども取らずに作業することを可能にする。

 

ⅱ)多様なアイデアを生み出すために、仕事以外の時間をたくさんつくること

単に、休むのではない。就業時間のうち、昼休憩とは別に30分間のコーヒータイムを設けて、その他の職員とのコミュニケーションを積極的に推進する。また、大学や公民館などと連携し、休みの時に専門性を身に着ける機会(専門学校・大学・大学院の社会人入学の推進)や、地域を知ることのできる機会(公民館の社会連携教育の推進)を充実させる。大学と公民館が連携し、専門性を身に着けた上で、社会で実験してみたい、実践してみたいと思った際に、スムーズに行えるように積極的に環境を整備する。

 

ⅲ)個人プレーではなく、チームで仕事を分担し合うこと

属人化しないように、仕事を複数人で担う。誰かが体調不良で休むかもしれない。子どもや、親、家族が体調不良になり、休まなくてはならなくなるかもしれない。仕事を進める上では、少なくともメインとサブで対応し、お互いをフォローし合う。また、職員が休みやすい雰囲気をつくるために、家族のことやその他優先したいことがある際は、事前に共有しフォロー体制を築くようにする。

 

ⅳ)たて・よこ・ななめの関係を築くコミュニケーション環境を整備すること

コミュニケーションをとると言っても、誰とどのようにとればいいのかという指摘があるだろう。社内では上司と部下、同期という「たて・よこ」のつながりはあるが、他部署の先輩や後輩とはなかなか接点がない。だからこそ、ななめの関係性を強化するべく、新入社員や若手にメンター制度を設けて、別の部署で年齢の近い先輩職員と、業務上のことやメンタル面のことを相談しやすい制度を確立する。

私は金融機関にいる際、神戸支店で支店長にこの取り組みを提言し、実践まで行った。新入社員からは「自分の担当している業務以外のことが分かり、視野が広がった。」「業務だけではないことが相談できて心強い。」という声を頂き、先輩社員からは「今は違う仕事かもしれないが、以前担当したことがあるので気持ちが分かる」「後輩から刺激をもらえてやる気が出る」など声を頂いた。

 

これらを組織全体の目標として掲げて個人にまで意識を徹底し、仕事分担を適切に行い、結果として残業時間を削減していくことが真の働き方改革である。

 

行政が民間に対して働き方改革を推進するのであれば、率先して行政機関が実践することが肝要である。しかし、対策のポイント(1)から(4)を確認すると、今の行政機関は働き方改革とは程遠い。それぞれの職員のデスクは固定され、席替えは人事異動の際に検討されるくらいで、デスクの上は毎日書類の山となっている。海外の方を行政機関に案内した際、あまりの書類の量に「これから引越しが始まるのか」と質問されたほどだ。休憩は昼食の1時間と定められているのみで、仕事も担当制で属人化されているケースが多い。担当が休暇の際は、担当が戻るのを待つのが現状である。

 

民間企業に対して、働き方改革の本質を行政機関が率先して魅せていくことが何よりも重要である。

 

 

6、最後に

 

日本がこのまま働き方改革を行わなければ、就業者一人当たりの生産性もあげることができず、世界と圧倒的な差をつけられてしまう。それだけではなく、「帰れない、出社しなくてはならない」という労働環境を改善しなければ、保育所や学童保育は毎日必要であるし、介護施設は全てのシニアが入れるだけ確保しなければならなくなる。こうした負担は税金となって、私たち国民に大きくのしかかってくる。

 

働き方改革の本質を、私たち一人ひとりが理解し実践することが、個人を助け、会社を助け、日本を助けることにつながるのだ。

 

 

参考文献

・『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』堀内都喜子 ポプラ新書2020

・『働き方改革』小室淑恵 毎日新聞社出版2018

・『改訂版 ワークライフバランス考え方と導入法』小室淑恵 日本能率協会マネジメントセンター2010

・『6時に帰るチーム術』小室淑恵 日本能率協会マネジメントセンター2008

・「我が国の労働時間と長時間労働の動向について」https://www5.cao.go.jp/keizai3/monthly_topics/2018/0913/topics_056.pdf(最終履歴2020/04/10)

・「労働生産性の国際比較」https://www.jpc-net.jp/research/list/pdf/comparison_2019.pdf(最終履歴2020/04/10)